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不妊症の治療法

3. 排卵障害の治療(排卵誘発法)

  1. 排卵はどのようにおこるのでしょう?
     排卵誘発法のご説明をする前にどうして排卵がおこるかを簡単に説明します。まず脳の内に視床下部というホルモンの中枢があります。まずここからGnRHというホルモンが分泌され、視床下部のすぐ下にある脳下垂体を刺激します。すると脳下垂体からFSH(卵胞刺激ホルモン)とLH(黄体化ホルモン)の2種類の卵巣刺激ホルモンが分泌されます。これら2種のホルモンの刺激をうけ卵巣から卵が排出されます。

  2. 排卵がおこらないとどうなりますか?
     排卵がおこらないともちろん妊娠はしません。この場合必ず月経の異常を伴います。例えば何ヶ月も月経がない(無月経)とか、あるいは生理が遅れがちのような場合は稀発月経といい、排卵するために長い日々がかかる事が推定されます。あるいは排卵を伴っていない出血(無排卵性出血)のこともあります。あるいはしょっちゅう出血があり、また長期間持続するような例も無排卵の可能性があります。これらを全てまとめて排卵障害といいます。

  3. 排卵誘発法とはどういう方法ですか?
     言うまでもなく妊娠が成立するためには排卵しなければなりません。しかしこの排卵がスムーズにおこらないか、あるいは全く排卵しないため、妊娠しない方に薬や注射で排卵をおこさせる方法が排卵誘発法です。

  4. どういう人が排卵誘発法の対象になりますか?
     言うまでもなく妊娠が成立するためには排卵しなければなりません。しかしこの排卵がスムーズにおこらないか、あるいは全く排卵しないため、妊娠しない方に薬や注射で排卵をおこさせる方法が排卵誘発法です。

    • 全く排卵がおこらないため月経が3ヶ月以上停止している人(無月経)。
    • 月経が始まってから排卵するまで20日以上の日がかかりそのため月経がおくれがちな方(これを稀発月経といいます)。
    • 通常自力で排卵がおこっているものの、さらに排卵誘発剤を使い多くの卵の排卵をおこさせて妊娠に結びつける場合もあります。これを調節下排卵誘発(controlled ovarian stimulation(COS))といいます。例えば人工授精(AIH)にはこのCOSを併用したり、また、体外受精−胚移植には多くの良い卵を採取するためにこのCOSを用います。

  5. 排卵誘発剤にはどんな薬がありますか?
     排卵誘発剤は大きく2種類に分類されます。

    • クロミフェンなどのエストロゲン受容体モジュレーター: ホルモンの中枢である視床下部に働きかけて排卵が起こるようにする薬です。クロミッドやセキソビットなどの内服薬がこれです。これらの薬は比較的軽症の排卵障害に用いられます。
    • hMG製剤(hMGテイゾー、フェリングhMGなど): この薬は直接卵巣に働きかけ排卵をおこす薬です。より重症な排卵障害の場合や、体外受精−胚移植のように多くの卵の発育を促す場合に使用します。筋肉注射で通常7〜10日間連日注射します。
    • リコンビナントFSH製剤(ゴナールエフ、フォリスチムなど): 同じく直接卵巣に働きかけ排卵をおこす薬です。hMGより安全性の面で優れているといわれ、またペン型注射器を用いて自己注射ができます。クロミッドが無効な多嚢法性卵巣症候群や、体外受精−胚移植に使用します。

  6. 排卵誘発剤に副作用はないのですか?
     主な副作用は多胎妊娠と卵巣がはれたりする卵巣過剰刺激症候群(ovarian hyperstimulation syndrome OHSS)です。

    • 多胎妊娠
      • クロミッドによる多胎妊娠率(そのほとんどが双胎ですが)は、妊娠に成功した人の5%です。
      • hMG製剤による多胎妊娠率は、妊娠に成功した人の17.2%です。ですからhMGで100人が妊娠したとすると、その内17人は多胎となります。しかしその多胎妊娠の82.9%が双胎です。残りの17.1%が双胎以上です。ですから仮にhMGで100人が妊娠したとすると83人は一人子妊娠で、14人が 2つ子で残り3人が3つ子以上という事になります。
    • OHSS
       hMGは直接卵巣を刺激し排卵をおこさせます。この時多くの卵が発育するために過剰な排卵が起こります。この現象が多胎の原因となり、時にOHSSの原因となります。通常、拇指位の卵巣がOHSSでは5〜6に腫れ、時にお腹の中に水がたまる(腹水)などの現象が時々おこります。しかし最近はhMG製剤の改善や超音波などの検査でOHSSを予知し、早い対策が取れるようになっています。

  7. 排卵誘発法の妊娠成功率はどの位ですか?
     軽症の排卵障害に用いられるクロミッドによる排卵誘発成功率は約80%と高い割合です。しかし妊娠率は約20%といわれています。一方比較的重症の排卵障害に用いられるhMGではほぼ90%近く排卵します。また妊娠率も60%以上と高いものです。(この妊娠率は排卵障害以外に不妊原因がない場合です)

  8. 特殊な排卵障害
    • 多嚢(のう)胞性卵巣 Polycystic Ovarian Syndrome(PCOS)
      • PCOSとは?
        排卵をおこすために脳下垂体という脳内のホルモン分泌器官から2種類の性腺(卵巣)刺激ホルモン(これをゴナドトロピンといいます。)が分泌されます。2 種類のゴナドトロピンとは卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体化ホルモン(LH)です。そしてスムーズに排卵がおこるためにはFSHとLHがバランスよく分泌される必要があります。バランスよい分泌とは〔LH/FSH 1〜1.5以下〕という値です。
        ところが、LHの分泌レベルだけが高いとスムーズに卵胞(卵巣の内に多数あり、中に卵が入っている袋)が発育しません。その結果排卵がおこらなかったり時間がかかります。すると生理不順や無月経となります。このようなホルモン異常を多のう胞性卵巣(PCOS)と呼びます。

      • PCOSの症状は?
        • 月経異常
          • 無月経(3ヶ月以上月経がない)
          • 月経不順(月経が2〜3ヶ月に1回しかなかったり、1ヶ月に2回あったり月経の周期が一定しない)
        • 多毛、ニキビ
        • 肥満傾向
        • 不妊
        PCOSの人で1〜4の全ての症状がそろうわけではありませんが、月経異常が特に重要なポイントです。

      • PCOSの診断は?
        • ホルモンの測定
          採血し血液中のLH、FSHの値を測定します。LHが高値であればPCOSの疑いがあります。
        • 超音波検査
          膣から観察する経膣超音波で卵巣を簡単にチェックすることができます。PCOSの場合、小さな嚢胞が左右の卵巣に真珠の首飾りのように観察されます。このような所見があればPCOSを疑います。

      • PCOSの治療は?
        • クロミッド療法
          PCOSの多くは先に述べたクロミッドではコンスタントに排卵をおこすことはできません。しかし時に本剤で排卵することがあり、一応トライする価値はあります。
        • クロミッドと他剤の併用(プレドニン、テルロン、メトホルミン併用法)
          先に述べたクロミッドをベースにプレドニンや、やはり排卵誘発作用のあるテルロンという薬あるいはメトホルミンという血糖降下剤を併用すると、クロミッド単独では排卵しかなかった例でも排卵することがあります。しかしこれもクロミッド単独法と同じでPCOSに対しコンスタントに排卵をおこせるわけではありません。
        • ゴナドトロピン療法(HMGあるいはFSH投与法)
          既に述べた性腺刺激ホルモン(ゴナドトロピン)を注射し卵巣を刺激して排卵を誘発する方法です。本法は比較的高い排卵効果が得られ妊娠率も良好ですが、他方多胎妊娠も20%前後と多く、またOHSSも20〜30%と高率であるため慎重な治療が必要です。
          最近、性腺刺激ホルモンのうち卵胞刺激ホルモン(FSH)だけを含有したrecombinant FSH(フォリスチム)を低用量注射することにより、OHSSや多胎妊娠を避けて排卵を誘発する方法も行われています。
        • 腹腔鏡下処置
          腹腔鏡という内視鏡を用い、両側の卵巣の表面にレーザー光線をあて小さな孔をあける(ovarian drilling法)と、その後、高率に排卵が得られることから最近しばしば行われる方法です。本法により70〜100%の排卵率と50%以上の妊娠効果が報告されています。ただ本法は腹腔鏡の実施のため4〜5日の入院が必要であることがやや難点です。

    • 早発卵巣不全(早発閉経) Premature Ovarian Failure(POF)
      現在、日本人の閉経年齢の平均は50才位ですが、閉経状態が40才未満でおこってしまう状態を早発閉経、あるいは早発卵巣不全(POF)といいます。卵巣の機能が停止しているため卵巣から分泌されるホルモンが低く、逆に卵巣を刺激する性腺刺激ホルモン(LH、FSH)が脳下垂体から過剰に分泌されています。

      • POFには治療法がありますか?
        一般的には排卵をおこすのは簡単なことではありません。通常、分泌過剰になっているゴナドトロピンの分泌を抑える方法として卵胞ホルモン剤と黄体ホルモン剤を周期的に投与して”見せかけの月経”をおこします。このようなホルモン補充療法を4〜5周期行い、その後休薬すると排卵がおこる場合もあります。しかしその後コンスタントに排卵がおこるわけではありません。その他、ゴナドトロピンの分泌を抑制するGnRHagonist を投与する方法もあります。しかし、どの方法をとるにせよPOFを排卵させることは簡単ではありません。しかし当クリニックではPOFを治療し幸い排卵にいたり、その少ないチャンスに妊娠に成功した方がいます。あきらめないで気長に治療にあたりましょう。